ロレックスvsオメガ、ダイバーズウォッチ対決
ダイバーズウォッチにおける認知度と評価が特に高いブランドといえばロレックスとオメガの名が挙げられるだろう。市場を牽引するこの2ブランドのうち、どちらがより深く潜水でき、より高いコストパフォーマンスを発揮し、より優れた性能を備えるのだろうか? 多様なダイバーズウォッチを展開する両者の代表作を比較しながら、それぞれの強みに迫っていこう。
パラクロム・ヘアスプリングの採用で高い耐衝撃性と耐磁性を備えるロレックス「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」(左)と、1万5000ガウス耐磁のマスター クロノメーター規格が備わるオメガ「シーマスター 300」(右)。
セレクション
ロレックスのダイバーズウォッチのラインナップは、「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」「オイスター パーペチュアル シードゥエラー」「オイスター パーペチュアル ロレックス ディープシー」の3モデルしかない。日付表示のないサブマリーナーを別モデルとしてカウントすれば、合計4モデルだ。その上バリエーションも少ない。ディープシーには2種類の文字盤仕様があり、サブマリーナーにはステンレススティール、ゴールド、その混合のコンビのケース素材と、文字盤やベゼルのカラーバリエーションがある。時刻や日付表示、回転ベゼル搭載以外の機能の複雑さはない。
オメガはより多くの選択肢を提供している。同ブランドのホームページでは、現在117のバリエーションを展開する。「シーマスター ダイバー 300M」「シーマスター プラネットオーシャン」「シーマスター プロプロフ」の4コレクションは異なる素材で作られたさまざまなサイズのケースに加え、ストラップの仕様、カラー、付加機能を備えている。ステンレススティールケースの他にチタンやセラミックスケースまであり、カラーバリエーションも豊富だ。またオメガは現在人気のレトロスタイルを「シーマスター 300」で展開している。一方ロレックスはデザイン変更に時間をかけ、緩やかな更新を続けている。
エントリーレベル
2ブランドのダイバーズウォッチのエントリーレベルに位置付けられる、ロレックス「オイスター パーペチュアル サブマリーナー」(左)と、オメガ「シーマスター ダイバー 300M」(右)。
ロレックスのエントリーレベルのダイバーズウォッチとして挙げられるのは、デイト表示なしのオイスター パーペチュアル サブマリーナー(8100USドル)だろう。しかしその需要は非常に高く、正規取扱店でも入手は困難である。オメガはダイバーズウォッチをより入手しやすい価格帯で提供している。シーマスター ダイバー 300Mは、ラバーストラップ付きで4900USドル、ステンレススティールブレスレット付きで5200USドルで販売されている。
日常使い
日常使いに適したモデルとして、オメガからシーマスター プラネットオーシャン、ロレックスからオイスター パーペチュアル サブマリーナー デイトを挙げよう。プラネットオーシャンはステンレススティールケースにNATOストラップ仕様で6200USドルから、サブマリーナー デイトはオイスタースティールケースとブレスレット仕様で9150USドルから入手できる(運よく購入する機会があれば、だが)。防水性能はサブマリ-ナー デイトが300mに対し、プラネットオーシャンは600m。またプラネットオーシャンにはヘリウムエスケープバルブが搭載され、トランスパレントケースバックでありながら強力な磁場にも耐える自社製キャリバー8900を内包している。
この点において、プラネットオーシャンの方がより高いコストパフォーマンスを示しているが、サブマリーナー デイトは2020年から新型キャリバー3235を搭載しているため、価格の優位性を補い、その価値を維持する可能性が高いだろう。
プロフェッショナルモデル
プロフェッショナル用の深海潜水装備であるオメガ「シーマスター プロプロフ 1200m」(1万2600USドル)(上)と、ヘリウムエスケープバルブを搭載したロレックス「オイスター パーペチュアル シードゥエラー」(1万6600USドル)(下)。
ロレックス 偽物のオイスター パーペチュアル シードゥエラーと、オメガのシーマスター プロプロフ 1200mは高い防水性能において競合している。シーマスター プロプロフ 1200mは水深1200mまで耐圧し、ロレックスはそれより20m深い1220mまで潜水できるとされている(ここには両方の時計が保持する安全性を担保するための、上記を超える予備の防水性能は考慮されていない)。
シーマスター プロプロフ 1200mの価格はステンレススティールケースとブレスレットの仕様で9700USドル、チタン仕様が1万2600USドル。オイスター パーペチュアル シードゥエラーのステンレススティール仕様は1万1700USドルで、プロプロフのチタンモデルの価格に近い。ただロレックスにはとっておきの「オイスター パーペチュアル ロレックス ディープシー」があり、わずか900USドル高いだけの1万2600USドルで、3900mの防水性を保持している。ロレックスは非常に硬い窒素合金ステンレス鋼のリングが圧力を吸収する特殊なケースシステムを開発した。これによってロレックスは、高い防水性を保ちつつ、比較的スリムなケースを実現したのである。そのため極限状況下の使用を想定した時計となると、ロレックスが一歩先を行くことになるだろう(オメガ「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェショナル」やロレックス「オイスター パーペチュアル ロレックス ディープシー」については後述していきたい)。
有名なヨットレースに紐づいた特別モデル、オメガ「シーマスター プラネットオーシャン 600M アメリカズカップ」(7050USドル)。
スペシャルエディション
グリーンベゼルを備えたロレックスのオイスター パーペチュアル サブマリーナー デイト(9550USドル)は、特に人気のモデルだ。
“特別モデル”に関して、オメガには豊かな土壌がある。オメガはオリンピックやセーリングチームのエミレーツ・チーム・ニュージーランド、映画のスーパースパイであるジェームズ・ボンドのために多くの特別モデルを世に送り出してきた。ロレックスもグリーンベゼルを備えたオイスター パーペチュアル サブマリーナーやグラデーションダイアルのオイスター パーペチュアル ロレックス ディープシーを提供しているが、これらは限定モデルではない。ロレックスのダイバーズウォッチで希少なバリエーションが欲しいなら、極めて高価なヒストリカルピースを購入する必要がある。ここはオメガに軍配が上がる。
オメガ独自のブロンズ合金製の「シーマスター 300」(1万1600USドル)。
ムーブメント
2020年よりロレックスは、ノンデイトのオイスター パーペチュアル サブマリーナーにはキャリバー3230、その他のダイバーウォッチにはキャリバー3235の自社製ムーブメントを採用している。両ムーブメント共にパワーリザーブは約70時間だ。オメガは主にキャリバー8000シリーズと、クロノグラフ用の9000シリーズを採用している。これらはオメガの効率の良いコーアクシャル エスケープメントと約60時間のパワーリザーブを保持している。ロレックスのムーブメントは極めて高い堅牢性と精度を示しているが、オメガのムーブメントも直近のテストではより良い平均値を記録している。その上、オメガは軟鉄製インナーケースを使わない耐磁性の強化に長い時間をかけてきた。耐磁性のあるムーブメントのパーツ採用により精度は磁場によって乱れることはなく、そのためトランスパレントバックの採用が可能となっている。ロレックスもムーブメントの改良を続けているため、この分野においては両ブランドとも非常に高いレベルを維持しているが、オメガの方がムーブメントにより美しい装飾を施している。
現行プロジェクト
2017年、ロレックスは極地の氷山下や南極沖合をダイバーが探検する「ディープ シー アンダー ザ ポール」を支援。また2012年には、映画監督のジェームズ・キャメロンが1960年の探検以来初めて海中で最も深い地点に到達した「ディープシー チャレンジ」に参加し、この時もロレックスがサポートした。1960年そして2012年の両方の探検において潜水艇の外部には、この過酷な試練に立ち向かうため特別に開発されたロレックスのコンセプトウォッチ「ロレックス ディープシー チャレンジ」が取り付けられており、その防水性能は1万2000mにも及んだ。この深海用ダイバーズウォッチの開発者たちは、ディープシーモデルに採用されたリングロックシステムを用い、直径51.4mm、厚さ28.5mmという着用可能なサイズを実現したのである。この探検に捧げられたディープシーモデルには「Dブルー」と呼ばれるグラデーションダイアルが採用された。
「Dブルー」文字盤を備えた「ロレックス ディープシー」は、ジェイムズ・キャメロンのマリアナ海溝への潜水を想起させる(1万2900USドル)。
2019年、オメガはロレックスに続き腕時計をマリアナ海溝へと潜水させた。この目的のために開発されたオメガの「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナル」は、極限の冒険家ヴィクター・ヴェスコヴォが所有する潜水艇「DSVリミティング・ファクター」の外装で1万925mの深度を記録した。オメガはこの直径55mm、高さ28mmの時計を3本だけ製造したが非売品で、全てが高水圧下から無傷で戻ってきている。
オメガはまた、海洋保護に取り組むネクトン財団を支援し、潜水艇ネクトンのモチーフをケースバックにあしらった「シーマスター ダイバー 300m」の特別モデルを制作している。つまり、ここでは両ブランドが互いにしのぎを削っているのである。
ジェームズ・ボンド
作家イアン・フレミングはその著作の中で、諜報員ジェームズ・ボンドがロレックスを着用していることを明記している。ジェームズ・ボンドの最初の7作品では、同ブランドのダイバーズウォッチがボンドの腕に装着されている。セイコーの超モダンなLCDウォッチを挟んで、ボンドは「007/消されたライセンス」(1989年)で再びサブマリーナーを手にする。オメガは、その後の007シリーズ8作品においてパートナーとなり、さまざまなシーマスターがジェームズ・ボンドと共演することになった。オメガはまた、ブランドとジェームズ・ボンドとの結びつきを意識して、数多くの広告を展開した。2021年公開の「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でも、諜報員は再びオメガを着用している。オメガはこの映画の公開を記念して、2本の特別モデルを発表した。この分野ではオメガがロレックスの足跡を追う形となっている。
ジェームズ・ボンドはオメガの成功に一役買っている。
結論
全体を通して、両ブランド共にそれぞれの強みを持っていることが明らかとなった。ロレックスの方が海底の最深にある海溝に先に到達したが、オメガはここ数年特に、耐磁性に優れたコーアクシャル ムーブメントによって自らの陣地を広げている。その上オメガのイメージはジェームズ・ボンドの手首に見られる時計によって強化されているのだ。ロレックスが高い防水性能と素晴らしい設計で人々を魅了する一方、オメガはダイバーズウォッチのバリエーションを豊富に展開し続けている。